おかんとオリンピック

『お母さんは聖火ランナーやったがで。』


と物心ついた頃から聞かされてきた。

 






まだ私が小さかったある日、テレビでオリンピックの開会式を見ていた。


セレモニーや選手の行進が終わり、開会式のフィナーレ。


世界中が見守るなか、聖火ランナーが聖火台に点火するシーンだ。




そんなタイミングで

『お母さんも東京オリンピックは、聖火ランナーやったがで。』


と言うもんだから、東京オリンピックは、母が聖火台に点火したのだと思っていた。


重ねていうが、私はまだ小さかった。




 






小学生になると、なにかの間違いだと気付いた。


村の運動会でやったことを、母がオリンピックと勘違いしたのだと。


もしくは母の誇大妄想か、ウソだと思っていた。

 





長野オリンピックの時にことの真相がわかった。

 


聖火ランナーは1人ではなかったのだ。


最後に聖火台へ点火するのは一人だけだが、聖火を持って走る人は数千人(数万人?)といたのだ。

 



聖火は日本国中を駆け巡る。


数千人が聖火ランナーとなり、各地でつないで聖火は長野に到着する。


『そうか母はこれをやったのか。』

『これなら母にもできそうだ。』

と妙に納得した。



 

前回の東京オリンピックで、

『聖火ランナーが転んで、聖火をドブに落とし、聖火が途絶えた。』


という珍事は聞いていない。


どうやら母は48年前、無事に大役を果たしたようだ。





7年後のオリンピックは東京に決まった。

 

 

今の高校生くらいの子たちが、東京オリンピックの主役になる。

 

 

ぜひ金メダルを量産して、日本をスポーツ大国に押し上げてほしい。

 

 

 

 

母はオリンピックのたびに聖火リレーをした話をする。

 

 

 

 

7年後もテレビを見ながら、うちの娘や甥っ子に


『お婆ちゃんも聖火を持って走ったがで。』


と母は誇らしげに言うだろう。

 

 

 

おかんにとって、聖火リレーは一大事件だったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

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