喪服

ある日、友人から連絡がきた。

 

 

A先輩が亡くなったと。

 

 

高校時代の部活の2つ上の先輩。

 

 

 

 

高校1年生の時、2年の先輩がメチャクチャ怖かった。

 

 

その2年の先輩方が恐れて近づけない存在がA先輩である。

 

 

当時1年生の私と3年の先輩とは、平民と神のような立場の違いがあった。

 

 

 

 

 

 

そんな先輩とも社会人になってからは飲む機会も多く、仲良くさせて頂いていた。

 

 

ある飲み会で、みんなの前で、先輩はあまりにも失礼な事を私に言ってきた。

 

 

殴ってやろうと思ったけど、グッと我慢した。

 

 

せめて言い返そうと思ったけど、それも我慢した。

 

 

一応、先輩と後輩という関係もあり、そこで私が言い返すと、その場の空気がおかしくなると思ったからだ。

 

 

 

 

 

それから数年間、なぜあの時に言い返さなかったか後悔した。

 

 

せめて言い返すくらい。

 

 

なんで我慢したんだ。

 

 

私は悶々としていた。

 

 

 

 

よし、次の飲み会では絶対にA先輩に言い返す。

 

 

そう決めていた。

 

 

頭の中でシミュレーションまで出来ていた。

 

 

しかし、それからA先輩と会うこともなく数年が過ぎたのだ。

 

 

 

 

そして、A先輩の訃報を聞いたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

A先輩よ。

 

 

突然すぎだよ。

 

 

前日に慌てて引っ張り出した喪服は、ウエストがキツすぎて着られなかったよ。

 

 

仕方がないから、先輩の葬儀へ向かう途中で急いで喪服を買ったよ。

 

 

 

 

 

会場に着くと、M先輩とかO先生もいたよ。

 

 

バカだなぁ。A先輩。

 

 

こんなに早く逝っちまうなんて。

 

 

 

 

 

会場で先輩の顔をみたら、もう昔の出来事をグズグズくすぶっている自分がバカみたいだったよ。

 

 

もう怒ってないよ。先輩。

 

 

もう笑い話だよ。

 

 

 

 

 

先輩。

 

 

奥さんは泣き崩れていたよ。

 

 

中学生の息子は先輩にそっくりで思わず笑ったよ。

 

 

小学校の息子は泣きながらも、健気に参列者に頭を下げていたよ。

 

 

一番下の女の子は、うちの長女くらいかな。

 

 

 

 

バカだなぁ。先輩。

 

 

こんな家族を残して。

 

 

 

 

 

先輩のお葬式に行って分かったことは、オレは死ぬのが怖い、ということだ。

 

 

自分が死ぬことよりも、子供たちの父親がこの世からいなくなるのが怖い。

 

 

まだ若いヨメの夫が、この世からいなくなることが怖いよ。

 

 

 

 

先輩もそうやろ?

 

 

 

 

先輩とまた飲みたかったなぁ。

 

 

また安い焼酎を一緒に飲みたかったのになぁ。

 

 

 

 

 

先輩のご冥福を心よりお祈り致します。