夏の合宿

 

 

8月31日。

 

 

小学校・中学校のときは、この日が来ると憂鬱であった。

 

 

明日から学校が始まるからだ。

 

 

 

だが、高校のときは違う。

 

 

夏休みがやっと終わった。

 

 

と、安堵の気持ちであった。

 

 

高校の3年間は夏休みといえば、ほぼ合宿だった。

 

 

と書くと、勉強をしていないのがバレバレだが、とにかく合宿だった。

 

 

とにかくキツかった。

 

 

 

 

 

なかでも高校3年のときの陸上競歩の石川県合宿。

 

 

この合宿に参加しているのは普通の高校生ではない。

 

 

強化指定選手というやつで、全国の猛者どもだ。

 

 

さらに、大学生や実業団など、いわゆる日本のトップといわれる方たちも一同に集う強化合宿だった。

 

 

 

私は高校のチーム合宿を切り上げ、ジャージで単身石川県へ乗り込んだ。

 

 

 

 

到着したのは夜だった。

 

 

私は合宿2日目からの参加となる。

 

 

 

合宿コーチ『今回の合宿は2部練です。』

 

 

合宿コーチ『昼間は気温が高いので休憩にあてます。』

 

 

合宿コーチ『練習時間は短いのでしっかり集中してやりましょう。』

 

 

 

ま、マジすか。(*´▽`人)

 

 

合宿といやぁ、朝、午前、午後の3部練習が基本やに。

 

 

2部練かぁ。楽勝。

 

 

ラッキー。(*´▽`人)アリガトウ♡

 

 

と思っていたら・・・

 

 

なんか様子がおかしい。

 

 

 

 

高校男子は50人くらい参加していて、大部屋でみんな布団を敷いて寝ていた。

 

 

私は静かに部屋へ入り、布団を敷いた。

 

 

夏のせいか、うなされている人が多い。

 

 

というか、寝言で発狂している人すらいる。

 

 

 

私『だ・・大丈夫・・かな。』

 

 

嫌な予感がした。

 

 

武者震いがした。

 

 

まあ、2部練やし。大丈夫。

 

 

 

 

 

しかし、次の日の朝、2部練のカラクリを知って絶句する。

 

 

 

●練習は早朝6時スタートして12時まで。

 

 

●そして、午後3時から夕方7時まで。

 

 

なんじゃこら。

 

 

マジすか?

 

 

ドッキリか?

 (゚ロ゚; 三 ;゚ロ゚)

 

 

これのどこが2部練ながぜよ?

 

 

区切らずにブッ通しでやってるだけぢゃん。

 

 

しかし、そうも言ってられない。

 

 

心を切り替えないと、とても乗り切れない。

 

 

 

 

 

 

余談だが、合宿で山道を走っているとき、

 

 

『あのカーブから急に車が走ってきて、自分にぶつからんかな。そしたら残りの合宿休めるのに。』

 

 

と思った。

 

 

それくらい厳しい合宿だった。

 

 

 

 

でも、こんはクレイジーで弱気なことは誰にも言うまいと思っていた。

 

 

そんな事を考えていたら、お昼ご飯のとき、仲の良い京都の洛南高校の選手が、私に話しかけてきた。

 

 

『あきら、オレ、あのロードのとき、カーブから急に車が飛び出してきて、オレに当たらんかな。と思ったわ。』

 

 

『足骨折くらいしたら、もうこんな苦しい思いせんでええわ。』 

 

 

なるほど。

 

 

みんな考えることは同じなんだな。

 

 

彼の言葉を聞いて、自分だけじゃなく、みんな限界までキツいのだと思うと少しだけ救われた気がした。

 

 

 

 

たぶん試合中も、みんな同じように苦しいんだろうな。

 

 

競歩は、ただひたすら苦しさを耐える競技だ。

 

 

 

練習でどこまで耐える力を身に着けるか。

 

 

そこで試合の勝敗が決まる。

 

 

どこまでも泥臭い競技だ。

 

 

 

 

 

 

インチキ2部練のなかで、唯一の休息がお昼ご飯を食べたあと。

 

 

2時間くらい休める。

 

 

みんな休眠をとったり、マッサージをやり合ったり。

 

 

ゲームやトランプとかしている余裕のあるやつはいない。

 

 

 

 

ちなみに、高校男子の大部屋は肥溜めのように臭い。

 

 

体育会系の高校男子50人がみんなジャージやTシャツを部屋に干して、布団を並べて寝ているのだ。

 

 

 

まさに地獄絵図である。

 

 

 

私も大阪の清風高校の友達とマッサージをしていた。

 

 

 

 

 

しかし、大部屋の隅で

 

 

『イチッ・ニッ・サンッ」

 

 

と声が聞こえる。

 

 

 

千葉の鳩山高校の連中だ。

 

 

鳩山高校だけで、全国の表彰台を独占できるくらい強いやつらだ。

 

 

奴らは、この休憩時間ですら腹筋をしている。

 

 

 

 

 

 

こいつら正気か?。

ォオ~!!(゚Д゚ノ)ノ

 

 

午後も明日もハードな練習があるのに。

 

 

布団で寝ている奴らは、そんな目線で彼らを見ている。

 

 

 

 

 

しかし、私と大阪の友達は違った。

 

 

『す・・凄い。』

 

 

彼らが普段から超絶的な練習をしているのが、この場面だけでも分かる。

 

 

だから試合でも強いのだ。

 

 

 

 

私と大阪の友達はすぐさまマッサージを辞めて、彼らの横に並んで腹筋を始めた。

 

 

『おまんら、土佐もんの意地を見せちゃるきに~』

 

 

と私が叫んだかどうかは覚えてないが、とにかく並んで腹筋をした。

 

 

彼等にせめて努力では負けたくなかった。

 

 

試合で彼らに勝つためには、彼等より練習するしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

その数ヶ月後。

 

 

全国大会。

 

 

千葉の彼と、大阪の友達、そして私の3人が並んで表彰台に立った。

 

 

この3人が1位・2位・3位になった。

 

 

私は3位だった。

 

 

 

やっぱり、あそこで腹筋をしていた人間で表彰台を占めた。

 

 

寝ていた連中は私達に勝てなかった。

 

 

 

 

これは私にとって凄い経験だった。

 

 

 

 

 

それに見合う努力をしたら、必ず報われる。

 

 

そう体験できた貴重な出来事だった。