卒園式

長女の卒園式前日。

 

 

たまたま他の幼稚園の園長がお店に来ていた。

 

 

彼によると、卒園式は保護者の98%は泣くそうだ。

 

 

私は泣かないと決めている。

 

 

 

 

 

日本男児たるもの、人前で泣くもんではない。

 

 

家族みんながすすり泣くなか、婆ちゃんの葬式でも私だけは泣かなかった。

 

 

娘の卒園式で泣くなんて、武士の世界では切腹ものである。

 

 

 

 

 

卒園式の前日の夜、私はそっとハンカチをスーツに忍ばせた。

 

 

もちろん花粉症だからだ。

 

 

 

引越しのゴタゴタでポケットティッシュがどこかへ行ってしまった。

 

 

探した結果、昔のジャンパーに辛うじて『宝くじ6億円』と書かれたポケットティッシュがあった。

 

 

背に腹はかえられぬ。

 

 

これをジャケットのポケットに忍ばせた。

 

 

繰り返しになるが、花粉症だ。

 

 

 

 

 

『お母さん、私を産んでくれてありがとう。』

 

 

って最後に言うがで〜

 

 

楽しみにしちょってよ〜

 

 

 

と、先生方が苦労して考えた一番の涙腺ポイントを、長女があっさり前日にバラした。

 

 

こういう『泣かせトラップ』をいくつか用意しているに違いない。

 

 

用心せねば。

 

 

 

 

 

 

 

卒園式当日。

 

 

まだ式の始まる前。

 

 

すぐ前の席のお母さんが、目にハンカチを当て、ティッシュで鼻をブヒブビしている。

 

 

 

ひどい花粉症だぁ。と思っていた。

 

 

あとから嫁さんに聞くと、あれは泣いていたのだそうだ。

 

 

まだ園児すら入場していないのに。

Σ(゚д゚lll

 

 

気の早い人だ。

 

 

きっと思い出がこみ上げてきているのだろう。 

 

 

 

 

 

 

保護者の椅子は、普段園児たちが座っているイスだった。

 

 

ひ・・低い。

 

 

け・・ケツが痛い。

 

 

 

 

前の方々の顔の間にビデオがくるよう、体をねじって私は卒園式を撮影した。

 

 

結果、ケツと腰が痛くて泣きそうだった。

 

 

でも私は泣かないと決めていた。

 

 

 

 

卒園式は順調に進み、長女も立派な卒園証書を頂いた。

 

 

 

 

帰り際、涙ぐむ担任の先生に駆け寄り、先生の頭をヨシヨシする我が長女。

 

(*´∀`)(T-T *)

 

 

うちの子は優しい子に育った。

 

 

いま頭をヨシヨシしている先生のおかげだ。

 

 

 

 

 

子供達が短冊に自分の夢を書いた。

 

 

親は子供達への願いを短冊に書いた。

 

 

 

 

うちの長女は

 

『パティシエになりたい』

 

と一丁前に書いていた。

 

 

 

 

 

私と嫁さんは何と書こうか考えた。

 

 

 

優秀なカイロプラクターになってほしい?

 

違う。

 

 

 

沢山のお友達ができるように?

 

否(いな)。

 

 

 

オリンピック選手?

 

NO NO

 

 

 

 

考え抜いた末に

 

『娘の夢が叶いますように。』

 

と書いた。

 

 

娘が自分のなりたい者になれれば、私達夫婦は満足だ。

 

 

何者になるかは自分で決めたらいい。

 

 

 

 

 

夢と願いをつづった短冊を風船にくくり付け、グランドで子供たちと一緒に風船を飛ばした。

 

 

この時は目頭が熱くなった。

 

 

でも泣かないと決めている。

 

 

 

 

風船が飛んでいくのをキラキラした目で見届ける子供たち。

 

 

泣かないと決めている。

 

 

 

 

風船が大空の彼方で消えていくのを見ると切なくなる。

 

 

泣かないと決めている。

 

 

 

 

グランドから大空に放たれた沢山の風船が、保育園から羽ばたいていく子供たちを連想する。

 

 

目がウルウルしてきた。

 

 

今日は花粉が多いのさ。

 

 

 

 

目がウルウルするくらいなら、さすがに武士の世界でも切腹まではいかない。

 

 

せいぜい2階級降格で勘弁してくれるだろう。

 

 

 

 

 

長女よ。

 

 

子供たちよ。

 

 

この風船のように羽ばたいて行くんだ。

 

 

自分の足で歩いていくんだ。

 

 

そこに人生がある。