ある日の朝、父から電話があった。
大阪にいる伯父が急遽したそうだ。
母の兄である。
4日後に葬式。
その日私は仕事。
もちろん予約も埋まっている。
『葬式に行けるか?』
と父に聞かれたけれど、まだ曖昧に返答しておいた。
『なんとか都合をつけて行くように。』
とは、父は言わなかった。
朝ごはんを食べながら4日後の飛行機を調べたが、もう空きはない。
もし私が行かない場合は、
『深夜バスになるかも・・・』
と姉から連絡が入った。
深夜バスて。
そんなの乗ったら、父の坐骨神経痛と母のメニエルが再発するに違いない。
80近くなった私の父は、もうとっくに高速道路を運転できない。
ましてや、ナビもない車で高速を乗り継いで、大阪の街を縦断して目的地に到着するわけない。
棺桶が増える一方だ。
姉も運転に自信がない。
私は葬式に行く決断をした。
伯父を弔うのももちろんだが、それ以上に自分の手で両親を大阪へ連れて行ってあげたいと思った。
これは世界で唯一私にしかできない仕事だ。
そして、家族は私を必要としていた。
親孝行を今までしてこなかったからなぁ。
ここで役に立っておきたい。
伯父が今年にはいって体調を崩していた。
春頃に父・母・姉・私の4人で、大阪へ見舞いに行こうかと提案したけれど、大阪の従兄弟が
『まだまだ元気やでっ。大丈夫やで。』
って言っていたから、ついぞ行かなかった。
それが秋になって急に旅立った。
元気なうちに、伯父と母を合わせてあげられなかったという後悔がある。
せめて、葬式くらいはとどこおりなく連れて行ってあげよう。
それにしても、このメンバーで密室で数時間もいて大丈夫だろうか。
同じ話を何度も繰り返し話す母。
同じ話を何度も聞いてくてくる父。
50年という悠久の時を経て、おとんとおかんは最恐コンビに昇り詰めた。
全日本プロレスで、スタン・ハンセンとブロディがタッグを結成した『超獣コンビ』にも匹敵する破壊力がある。
(※坂本カイロプラクティック調べ)
この最恐コンビと密室で一緒にいられるリミットは2分。
(※坂本カイロプラクティック調べ。)
理性を保っていられるのは2分だ。
しかし、今回は片道5時間、往復10時間の長旅。
大役を果たせるか、神のみぞ知る。