めおと漫才

叔父の葬式のため、おとん、おかん、姉、私の4人は早朝から大阪に向かった。

 

 

77歳のおとんと74歳のおかん。

 

 

すっかりお年を召してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

行きも帰りも高知ー大阪間を日帰りで私が運転する。

 

 

ハードな一日となった。

 

 

しかし、ハードなのは運転だけではない。

 

 

両親と往復約10時間も密室で一緒にいるというのが、私に耐えられるかどうかだ。

 

 

 

 

 

 

 

食品衛生で3秒ルールというものがある。

 

 

食べ物を落として3秒以内に拾えばセーフというやつだ。

 

 

 

これにならって、私も1分ルールを設けている。

 

 

親と電話で話すのは1分以内だ。

 

 

理性が保てるのは2分が限界だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ話を何度も聞いてくるおとんと、

 

 

同じ話を何度もしてくるおかん。

 

 

最恐コンビである。

 

 

 

 

 

 

 

さて、2分で神経を消耗するのに、往復10時間も一緒に居て絶命しないだろうか。

 

 

実家の神田まで迎えに行って出発しても、大阪どころか(私の計算では)薊野あたりで車が爆発するのではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな不安もあるなか、4人での大阪旅がスタートした。

 

 

そうは言っても、姉がいてくれて助かった。

 

 

うまく車内を和ませてくれた。

 

 

私が運転して、助手席に姉がいる。

 

 

後ろの席におとんとおかん。

 

 

 

 

 

後ろの席でいつものように、めおと漫才が始まる。

 

 

49日の日取りをみんなで話し合っている時、おかんだけ全く別の話題をず~~~ッと一人でしている。

 

 

おかんのボケに対して、おとんが突っ込む。

 

 

『いまは49日の話をしゆーろ。(怒)』

 

 

こうやって、いつもおとんとおかんは言い合いになる。

 

 

 

 

 

 

 

おかんの周りだけ地球の磁場が歪んでいて、おかんだけ時空を超えて生きているのか。

 

 

それくらい、おかんだけズレている。

 

 

 

 

 

 

そう思っていたら、 次はおとんがボケて、おかんが突っ込む。

 

 

本当にめおと漫才のようだ。

 

 

二人のつたない話術と、つたない読解力で話は頓挫して、すぐ言い合いになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最近流行のダブルボケ、ダブル突っ込みである。

 

 

二人とも全く話が嚙み合っていない、高度なズレ漫才まで披露してくれる。

 

 

舞台の漫才に対して、観客席から笑ったり野次を飛ばす私と姉。

 

 

2分だとイライラするけど、数時間一緒にいると慣れてくるから人間の適応力は素晴らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『時短のため、おのおので朝食を用意して車内で食べるように。』

 

 

という通達を大阪行きの前日に、私が送っていた。

 

 

 

 

車内で私と姉がパンを食べ終わった頃、おとんがおにぎりを8個も持ってきていることが判明した。

 

 

おにぎり8個て。

 

 

力士かレスラーかよ。

 

 

 

 

おのおので用意と言ったのに。

 

 

一人2個ずつ分も買ってきている。

 

 

なぜだ。

 

 

おとんに聞いてみた。

 

 

 

 

 

『足りざったらこまるろ。』

 

 

というのが父の言い分だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コンビニでトイレ休憩したとき、なぜかおとんがパンをさらに2個買ってきた。

 

 

さすがに突っ込んだ。

 

 

 

 

私『おとん、おにぎりがまだ6個も残ってるやん。』

 

 

私『なんでパン2個も買ってきたん?』

 

 

おとん『このメロンパン、ふちっこがボロボロしてうまいがやき。』

 

 

おとん『あきらこれ食べや♥』

 

 

とニコニコしてメロンパンを渡してきた。

 

 

 

 

 

 

我が国の開国以来、高速道路を運転しながら、ボロボロ落ちるメロンパンを喰らう日本男児がいただろうか。

 

 

『それボロボロ落ちるやん(笑)』

 

 

と姉が優しく突っ込んでいた。

 

 

姉は優しいなと思う。

 

 

 

 

 

 

 

私も姉に習って、なるべく親を叱らないようにした。

 

 

私『おとん、メロンパンはあとで食べるわ。』

 

 

とだけ言っておいた。

 

 

 

おとんが食糧を買いすぎているのを、おかんブツクサ言い出して、またおとんとおかんが言い合いになりそうだった。

 

 

こうやって、うちの両親はケンカをしているんじゃなくて、じゃれ合っているのだ。

 

 

数時間一緒にいたらそう思えるようになってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで、大阪まで行って帰ってきた。

 

 

あんな元気で破天荒だった伯父が逝ってしまった。

 

 

 

 

この4人で、こんなに長時間過ごすのも、もう最後かもしれないと思った。

 

 

いつか、この両親のめおと漫才が見られなくなると思うと、無性に寂しい。